専門家の皆様へ

「受動的」な介入から、「探索的」な学習へ。

複雑系科学とエコロジカル・ダイナミクスに基づく、新たな小児リハビリと発達支援の実践

子どもリハビリテーションセンター Illumination(株式会社LIGHTSWELL)は、従来的な神経成熟理論(Neural Maturation Theory)に基づく階層的なアプローチから脱却し、現代の運動制御科学およびエビデンスに基づいた「制約主導アプローチ(Constraints-Led Approach: CLA)」を実践の中核に据えています。

私たちは、子どもたちの発達を「脳による一方的な指令の成熟」とは捉えていません。 発達とは、個体(Organism)・環境(Environment)・課題(Task)の3つの制約が相互作用する中で、システムが自己組織化(Self-Organization)し、新たな秩序(アトラクター)を創発する非線形なプロセスであると定義しています。

1. 理論的背景:ダイナミック・システムズ理論(DST)の実装

世界的な小児リハビリテーションの潮流は、Iona Novakらのシステマティックレビュー(Traffic Light System)が示す通り、受動的なハンドリングや正常運動パターンの促通から、能動的な課題指向型アプローチや環境調整アプローチへと完全にパラダイムシフトしました。 当事業所では、この科学的根拠に基づき、以下の視点を徹底しています。

  • 否定されるパラダイム: 脳をハードウェア、身体をその従属物とみなす階層理論。原始反射を「統合されるべき阻害因子」とする還元主義的な視点。
  • 採用するパラダイム: 脳・身体・環境を等価な構成要素とみなすシステム理論。反射や痙縮さえも、システムが環境に適応しようとした結果としての「解」であり、利用可能なリソース(自由度)であるとする生態学的視点。

2. 方法論:アフォーダンスのデザインと制約の操作

私たちは、子どもたちに「正しい動き」を教え込むことはしません。代わりに、彼らが自らの身体機能を用いて、能動的に解を探索できるような「環境」と「課題」をデザインします。 これが私たちの実践するCLA(制約主導アプローチ)です。

  • 課題の制約(Task Constraints): 「窓から電車を見る」「あのおもちゃに触れる」といった、子どもの強力な意図(Intention)を引き出すゴール設定。これにより、トップダウンの動機づけをトリガーとした、ボトムアップの運動制御システムを駆動させます。
  • 環境の制約(Environmental Constraints): 私たちが提唱する「育住(いくじゅう)」の概念は、生活空間そのものにアフォーダンス(Affordance / 行為の可能性)を埋め込む試みです。段差、狭小空間、質感の変化などを意図的に配置することで、知覚と行為の循環(Perception-Action Coupling)を促し、「繰り返しのない繰り返し(Repetition without Repetition)」による真正な運動学習を実現します。

3. チームアプローチ:環境のアーキテクトとして

Illuminationのスタッフ(リハビリ専門職や看護師、保育士等)は、単なる「支援者・訓練者」ではありません。私たちは、子どものシステムがどのように揺らぎ、どの制約を操作すれば自己組織化が促進されるかを見極める「環境のアーキテクト(設計者)」でもあります。

  • スケーリング(Scaling): 子どもの身体特性や精神状態(個体の制約)に合わせて、道具のサイズやルールの難易度を微調整します。
  • 摂動(Perturbation): 安定しすぎてしまった非効率な運動パターン(深いアトラクター)に対し、適切な揺らぎを与えることで、システムを不安定化させ、より適応的な新しい動きへの移行を促します。

4. トランスディシプリナリー・アプローチ:生活圏全域のデザイン

しかし、子どもの自己組織化は、当事業所という限定された環境だけで完結するものではありません。学校、保育園、家庭、そして医療機関。これら全ての場所が、子どもにとっての重要な「学習のコンテクスト(Context)」です。

もし、各環境間で「制約」が矛盾していれば(例:ここでは探索が推奨されるが、学校では過剰に管理・介助される等)、システムは安定した解を見つけられず、学習の汎化(Generalization)は阻害されます。

そのため、私たちは地域連携や医療福祉との連携を、単なる情報のやり取りではなく、「生活圏全域(Ecological Niche)における制約の調整と共有」と捉えています。 多職種・他機関と共通の意図(Shared Intentionality)を持ち、社会全体で子どもの探索を支える一貫性のあるネットワークを構築することこそが、真の自立支援であると考えます。

私たちは、児童発達支援事業所という閉じた空間だけでなく、家庭や地域社会という広大なフィールドにおいて、子どもたちが自らの力で世界と関わり、発達していくための「創発的な学習環境」を構築し続けます。

科学に裏打ちされた情熱で、子どもたちの未来を照らす(Illuminate)。 それが、私たちの専門性であり、使命です。

株式会社LIGHTSWELL
代表取締役 平川 晋也