胸郭の柔軟性と体幹機能の向上で、呼吸がもっと楽に、もっと自由に。
在宅で生活するお子さんの中には、呼吸に課題を抱えている子どもたちが少なくありません。医療的ケアが必要だったり、慢性的な呼吸器疾患を持っていたり…。そのような子どもたちが少しでも快適に、そして「自分らしく」暮らしていくために、呼吸リハビリテーション(以下、呼吸リハビリ)はとても大切です。
今回は、胸郭(胸の骨や筋肉)の柔軟性と体幹機能の向上が、呼吸をどのように助けるのか、理学療法士や作業療法士による呼吸リハビリの効果についてお伝えします。
胸郭の柔軟性が「呼吸のしやすさ」に直結する理由
私たちは、肺だけで呼吸しているわけではありません。実は、肋骨や筋肉、背骨、横隔膜など、胸の周りの構造が「ふくらんだり縮んだり」することで、空気を出し入れしています。
しかし、小児期に呼吸器のトラブルがあると、
- 胸郭が硬くなる
- 過剰に努力した呼吸となる
- 呼吸が浅く・速くなる
といった状態が起こりやすくなります。結果として、息を吸う・吐くという当たり前の動きが、どんどん「体に負担のかかる作業」になってしまうのです。
体幹機能が高まると、呼吸はもっとスムーズに
呼吸は、胸やお腹の筋肉だけでなく、「腹圧を高める体幹機能」と深く関わっています。
たとえば、努力した呼吸は過剰に力が入り浅くなりがちですよね。お子さんの腹圧を高めて体幹機能がしっかり育ち、座る・立つ姿勢が安定することで、肺や胸郭が適切にリズムよく働くことで、より深く、ゆったりとした落ち着いた呼吸が可能になります。
退院後の継続的な呼吸リハビリ支援が大切な理由
病院での治療やケアが一区切りを迎え、無事に退院を迎えられたとき、多くのご家族が「これでひと安心」と感じられると思います。しかし、退院は「終わり」ではなく「新しい生活のスタート」でもあります。
呼吸に課題のあるお子さんの場合、入院中に整っていた呼吸状態が、在宅に戻ることで少しずつ不安定になるケースもあります。これは、日常生活の中での動き・姿勢・環境の変化が、呼吸に想像以上の影響を与えるからです。
とくに在宅では、
- 長時間同じ姿勢で過ごすことが多くなる
- 呼吸に必要な筋肉がうまく使えないままになりやすい
- 日常動作が少ないことで、胸郭や体幹が硬くなる
といった状況が見られることがあります。
こうした変化を早期に見つけ、適切にサポートしていくためには、「継続的な呼吸リハビリの関わり」がとても重要です。
理学療法士や作業療法士が定期的に関わることで、
- 姿勢や呼吸の状態を専門的に評価し
- 必要な動きや運動を生活の中に取り入れ
- ご家族にとっても「安心できる見守り」となる
というトータルな支援が可能になります。
「病院を出たら、あとは家庭でなんとかしなきゃ」ではなく、在宅でも“つながり続ける医療的ケア”としての呼吸支援があること。それが、お子さんの毎日をもっと楽に、もっと豊かにしてくれます。
呼吸が楽になると、生活が変わる
胸郭が柔らかくなり、体幹がしっかりしてくると、呼吸はぐっと楽になります。すると、
- 過剰な筋緊張が落ち着く
- 声が出しやすくなる
- 疲れにくくなる
- 睡眠の質が上がる
- 医療的ケアの頻度が減る可能性も
という、生活全体の質の向上(QOLの改善)につながっていきます。
お子さんの「呼吸の負担」が減ることで、毎日の生活がもっと安定し、笑顔が増える。それが、呼吸リハビリがもたらす本当の価値です。
考文献(保護者の方にも読みやすい解説つき)
参考文献
- Ferreira et al. (2012)
呼吸姿勢トレーニングにより、小児の換気機能が改善されたことを示した研究。 - Papadopoulou et al. (2024)
慢性呼吸器疾患をもつ子どもへの呼吸リハビリの重要性と、親の関与の効果を検証。 - Azab et al. (2022)
胸郭の柔軟性改善により、術後の小児の呼吸機能が回復した事例を報告。 - Bhammar et al. (2022), Bermond et al. (2009)
吸気筋トレーニングと胸郭の可動性の関係を評価したレビュー。 - Torres-Castro et al. (2021)
小児の呼吸器リハビリが身体機能・社会参加にどう影響するかを明らかにした研究。
最後に
子どもリハビリセンターIlluminationでは、医療的な専門知識と経験を持つスタッフが在宅生活を支えるサポートを行っています。
たとえば、当事業所には
- 日本呼吸器学会・日本心臓血管外科学会・日本麻酔科学会が共同で認定する「3学会合同呼吸療法認定士」の資格を持つリハビリスタッフ
- 小児科病棟での経験をもつ看護師
など、呼吸ケアや医療的ケアに精通した専門職が在籍しています。
私たちは、単なるリハビリの提供ではなく、「家で過ごす毎日を安心して送れるように支える存在」でありたいと考えています。